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コケ本の元祖!岡山倉敷の「蟲文庫」さんに行ってきました
突然ですが、みなさんはお好きな「コケ本」はありますか?
ここ最近は様々なコケの本が出版され、コケを育てたりコケ観察に行ったりすることも、だいぶメジャーな趣味として認知されてきた感があります。
ところが道草が苔の仕事を始めようと思った10年前には、趣味でコケを楽しむための本は今ほど多くありませんでした。
そんななかで、コケを始めるきっかけになった2冊の本がこちら。
(田中美穂さんの「苔とあるく」は2007年、藤井久子さんの「コケはともだち」は2011年の出版)
古くからコケ好きな友人知人に聞いても「この本がきっかけだった」という人が多い、はじまりの書のひとつです。
今回はこの「苔とあるく」の著者である田中美穂さんが営む、岡山県倉敷市の『蟲文庫』さんを訪ねました。
なぜ2007年にコケの本を出版することになったのか。蟲文庫という不思議な名前の古本屋はどんな店なのか。
緊張と不安を胸に、岡山へ向かいました。
旅の予習 pic.twitter.com/QKVcVOD1Ea
— 道草 michikusa (@warannahito) February 5, 2023
倉敷美観地区に佇む古本屋、『蟲文庫』
観光地としても有名な倉敷美観地区。昔ながらの建物が残っており、趣ある景色が楽しめます。
空がきれいに見えるな~と思ったら、電線も地中化されている…!
まさに江戸時代にタイムスリップしたような街並み(時代劇の撮影にもよく使われるとのこと、納得です)。
おしゃれなカフェや美術館、民藝品を扱う店などが軒を連ね、一日かけて楽しめそうなエリアです。
―――
そんな美観地区の中。本町通りに、田中さんが営む『蟲文庫』があります。
レトロな外観は古本屋らしさ満点。多肉植物やサボテンが入り口で迎えてくれます。
名前から連想して自然科学系の本が多いのかと思っていましたが、本のジャンルは文学から漫画まで多種多様。
化石や地球儀、亀の置物など、なんだかワクワクするものもたくさん。
静かな時間が流れる店内の奥。ひっそりと帳場に座る田中さんに、お話を伺うことができました。
一般の人向けの「コケ本」の元祖
「苔とあるく」が出版されたのは2007年。田中さんにとってはご自身初めての本です。
メールマガジンに文章を書いていたところ、それを見ていた出版社の編集者から「なにか書いてみない?」と声をかけられたのがきっかけでした。
当時、一般の人向けのソフトな「コケ本」はなく、コケのことを知らない人にもわかりやすい本を、ということで企画が決まったのだそう。
もともとコケ好きだった田中さん。編集者の方の「こんな本をつくりたい」という思いに応えるかたちで制作が進みました。
専門的な部分で協力しているうちの一人が、岡山コケの会の西村直樹先生です。分類学の専門家である先生にとって、「一般の人は何がわからないのか、わからない」という状態だったそう。
田中さんが素人目線を補うことで、一般の人にもとっつきやすいコケの本が完成しました。
もしまだ読んでいない方がいたら、ぜひ一読してみてください。肩ひじ張らずに読めて、ちょっと自分もやってみたくなる小ワザがたくさん載っていて、読み終わればコケのこと、コケの観察の仕方が身についているはず。
また、文学に精通した田中さんならではの「苔文学」コラムがあったり、巻頭には岡山出身の詩人・永瀬清子の「苔について」という詩が掲載されているのも特徴的。文学にはまったく疎い道草なので、有名文学作品の中にも苔について書かれた文章があるのか!と驚いたものです。
理科的な面からだけでなく、コケを楽しめる1冊。まさに、理系の人にも文系の人にもおすすめです。
田中さんのコケの楽しみ方
観察・同定
田中さんは、岡山コケの会の会員、日本蘚苔類学会の会員でもあります。帳場には実体顕微鏡があり、観察や標本作りもお手のもの。
苔への興味は「道で見かけるコケがなにゴケなのか、名前を知りたい」が基本とのこと。高校生の頃は粘菌をやっておられたそうなので、もともと小さなものを見る目はお持ちなのかもしれません。身のまわりのコケは小さくて最初は難しかったけれど、山の方には大きなコケがあるのを見て、少し気が楽になったそうです。
普及・啓蒙活動
古本屋を始めたばかりの頃、商品が少なかったため、自作の「苔袋」なるものを店に並べていたことがあったそうです。
乾燥させたコケ(エゾスナゴケなど)と100均で買ったルーペ、観察方法・まきゴケの方法を書いたリーフレットをセットにした「苔袋」。
「苔とあるく」の中にも、友人にまきゴケセットを送りつける、友人宅に生えているコケを同定して知らせる、などのプチ啓蒙活動についてもコミカルに書かれています。
”人に勧める”のもコケの楽しみ方のひとつなのかもしれません。
道草が苔の仕事をはじめたのが2013年ですから、田中さんのような先人がじわじわとコケ好きを広げていてくれたおかげで、コケ好きの土壌ができてきたのでしょう。ありがたいことですね。
コケ好きはぜひ岡山へ!
(倉敷で見た足元のコケ)
岡山は日本で一番晴れの日が多いとされる「晴れの国」。
田中さん曰く、「倉敷は乾燥しているので小さい苔しかいない」とのこと。確かに、瀬戸内側はコケと無縁な印象です(岡山も北部には山があるので山のコケも観察できます)。
それでも、岡山コケの会があり、蟲文庫があり、岡山は間違いなくコケの聖地です。
コケが気になっている方はぜひ「苔とあるく」を読んで、岡山へ行ってみてはいかがでしょうか。